~キドラ古墳壁画に見る小津監督の自然信仰の宗教観~
◇昨年2013年8月9日、小津安二郎生誕110年没後50周年を記念して遺作の『秋刀魚の味』が江東区文化センターで上映された時、岩下志麻さんがゲスト出演した。真っ赤な衣装つけてステージに現われた。「今日は小津さんが好きな『赤』に合わせて赤の衣装できましたと説明があった。古石場文化センターの小津紹介コーナーにも赤のヤカンが展示されていていたので小津監督の赤好みは何となく知っていたが、改めて『秋刀魚の味』をじっくりと見てみると岩下志麻さんの言う通り、確かに映画の場面隅々に小道具や置物の形で赤いものが必ず配置されている。ときには飲み屋の赤提灯が画面いっぱいに映し出される。その時以来、小津監督の赤好みが気になった。
◇今年4月、古石場文化センターで恒例の全国小津安二郎ネットワークに総会が開催された。立教大学現代心理学部前田英樹教授による特別講座が設けられた。詩と批評「ユリイカ」(2013年11月臨時増刊号)総特集『小津安二郎』~生誕110年/没後50年~の中の論考『麦秋』の大和ついて語ってくれた。前田教授は、「大和はええぞ。まほろばじゃ」と老優・茂吉(高堂国典)が語る「大和」は奈良・明日香村よりもっと古い都跡、「桜井」が「大和」であるという。その背後に見える「三輪山」が日本最古の神社、大神(おおみわ)神社の御神体そのものであり、『万葉集』の本拠地であり、六世紀に大陸から仏教が渡来したところである。春に土壌を整え、籾種を育て、苗を水田に植え、秋には稲穂を刈り取るという太古からの「大和」の農耕民の生き方は日本文化の源流であり、稲作信仰の根源であるという。
◇今、上野の国立博物館で「キトラ古墳壁画四神の特別公開」が開催されている。古代中国の「陰陽思想」と「五行思想」から発展して「陰陽五行思想」や「風水思想」として日本に普及した当時の状況が手に取るようによく分かる。前田英樹教授のいう大和文化と小津安二郎の繰り返しの「循環思想」の根源を想起できる。キドラ古墳壁画の四神の一つ南の守護神「朱雀」の色は家族の繋がりの象徴である「血」の色であり、深川に生まれた小津監督が日常生活に見てきた富岡八幡や深川不動の建物や欄干や鳥居に見る「朱色」の赤である。
◇「小津監督は赤がお好き」の背景には古代中国の「陰陽思想」と「五行思想」に基づく「陰陽五行思想」や「風水思想」が想起される。前田英樹教授が唱えた「小津映画には自然信仰の宗教心がある」と云った一言と岩下志麻さんの「小津監督は赤がお好き」の一言が「キドラ古墳壁画四神」の「朱雀」と合致した。
◇天文図・日月像(キトラ古墳壁画・天井)
キトラ古墳壁画の石室天井の中央にある天文図
には東西に日像と月像が描かれている。天の赤道(内軌)と同心円(外軌)に黄道が中心を北西にずらしてそれぞれ朱線で描かれている。直径は順におおよそ16.8㎝、40.3㎝、60.6㎝、40.5㎝である。中心に北極五星と北斗七星、二十八宿など68星座、約350個の星を配する。星座は朱線で結ばれ、直径6㎜または9㎜の丸く切った金箔で記されている。天文図に接して、日月像が陰陽の原理に基づき東西に描かれている。
◇玄武(げんぶ)は北を守る神獣。色は黒、季節は冬を象徴する。亀に蛇が絡み付いている姿。古代中国では、亀を雌、蛇を雄と見なし玄武の「玄」は黒色、「武」はよろいを身につけた武装した動物、すなわち亀をさす。
◇青龍(せいりゅう)は東を守る神獣、色は青(緑青)、季節は春を象徴する。
◇白虎(びゃっこ)は西壁に描かれており西を守る神獣で、色は白、季節は秋を象徴している。